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楷書とは?

楷書

楷書というと何を思い浮かべるでしょうか。上の写真に掲げたものは みな楷書ですが、それぞれ姿が違います。
楷書とはそもそも何者でしょうか。

1 最後に生まれた書体

書体を大雑把に分けますと、楷書、行書、草書、隷書、篆書の五種類+雑体書です。 ここでは雑体書は置いておくとして、歴史順に並べると、篆書→隷書→草書→行書→楷書 と、楷書は最後になります。
言い換えれば楷書は全ての書体を包括したものといえます。
よく、楷書をくずしたものが行書、行書をさらにくずしたものが草書といわれますが、当たらずとも遠からず。 実際は、隷書(当時の正書体)の早書き(筆記体)が草書(1)、草書を丁寧(正書体にいこうとしたのが) に書こうとしたのが行書(1)、そして行書を より丁寧(正書体に)に書いたのが楷書、ということになります。
そして、楷書をくずしたのが行書(2)、行書をくずしたのが草書(2)、となります。
のちほど書く機会があると思いますが、行書・草書は2種類あります。

2 楷書の繁栄

楷書がそのかたちを極めたのは、中国、唐(618〜907年)の時代です。特に 虞世南「孔子廟堂碑」(628〜630年)、歐陽詢「九成宮醴泉銘」(632年)、 チョ(ころもへんに者)遂良「雁塔聖経序」(653年)の3つは代表的なもので、 時に「楷書の極則」と呼ばれます。
当時の東アジア最大の国家にして、律令で厳しく治められていた唐帝国にもっとも相応しい書体として用いられた といえましょう(現に、これ以降は同じ唐帝国でもこれら以上の楷書は出現しませんでした)。
なお、それぞれ楷書といっても違いはありますので、実際見てみると いいかと思います(本屋さんや図書館に確実にあります)。

3 トン、スー、トン(三折法)

例えば、「一」という字を書く時、起筆(一番最初です)でトン、とおき、送筆(起筆と 終筆のあいだ)はスー、と進め、終筆(締めです)でトン、と形を整えてあげます。
鉛筆やペンではそんなことを意識しませんが、いざ筆で鉛筆などと 同じ具合で書けばえらいことになります。
では、「トン、スー、トン」の前は?「トン、スー」もしくは「スー、グー」といった テンポの二折法ががありました。つまり、起筆もしくは終筆が曖昧だったのです。
ただし、ただ「トン、スー、トン」とやればいいのではなく、「トン、スー」 とかを上手いように使い分けするのが大事です。2で紹介した三人の後に出てくるのが 顔真卿という人なのですが、この人の「多宝塔碑」(752年)をみますと、一見力強く 感じますが、よく見てみますと、ただ「トン、スー、トン」と繰り返しているだけで 、パターン化してしまっているのです。
音楽で大事なのはリズムですが、書も同じくリズムが大事です。

4 日本の楷書の華

日本の楷書を見ようと思うと、まずたどり着くのが奈良時代の写経です。
それまでの書はほとんど残っていないので何ともいえませんが、聖徳太子筆といわれる 「法華義疏」(ほっけぎしょ)を見る限りでは「トン、スー」「スー、グー」の二折法です。
奈良時代(710〜794)は国家を仏教の力で鎮め護る(鎮護国家仏教)という考えが 広まっていた時代なので、必然的にお経を写すことも多かったのです。基本としてお経は楷書で 書くので、楷書が広まるわけです。
また、聖武天皇「雑集」、光明皇后「楽毅論」はいずれも楷書ですが、性格が全然違うものとして有名です。
聖武天皇は繊細なまで(神経質という感じもしますが)の筆の運び、光明皇后は豪放という言葉 が似合う(些細なことは気にしない)筆の運びをしています。

5 そして明治以降

奈良時代に楷書は華を迎えましたが、以降、ぱったりと楷書が見えなくなります。 鎌倉時代に中国(宋)から禅文化などとともに書も来ており、楷書復活かと思われましたが、 書いているのは僧侶だけで、日本では行書・草書の書き方が当たり前となっていました( 古文書などで楷書のモノがありますが、あくまでも改まった時のみです)。
江戸時代にも書は中国(清)が少なからず来ており、楷書を書く者もいましたが、江戸時代は 御家流という書体(行書・草書)が公用書体でした。
楷書が復活したのは明治以降です。鎖国が終わり、日本から中国(清)に渡航する人が増え、 本場物を持ち帰ってきた人が増えたのです。特に、石に彫られたものに啓発され、厳しい楷書 がもてはやされました。
ただ、この裏を返しますと、なよなよとした、しかも徳川幕府の公用書体である御家流から 速く脱却したかったという空気も読み取ることができます。

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