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鳥獣戯画の動物

鳥獣戯画(正確には鳥獣人物戯画)は平安時代末期から鎌倉時代初期に描かれた絵巻物で、 甲・乙・丙・丁の全4巻とその断簡からなります。どのような目的で描かれたのかなどは わからない点が多いのですが、こんなに動物が描かれた絵巻物はまずありません。
この絵巻物が装飾の材料となったとは言い難いですが、少なくとも (一部の世界でしょうが)これだけの動物が知られていたという証拠にはなるはずです。
ここでは、鳥獣戯画で見ることができる動物について紹介しようと思います。 また、霊獣については姿の詳細などについても言及しようかと思います。

           亀(犀?)  唐獅子      麒麟    鹿                隼・鷲        山羊  

乙巻の鷹に続いて登場。座る犬、吠え掛かる犬、けんか(じゃれあう)犬が描かれる。
甲・丙巻でも少なからず登場し、こちらでは擬人化されている。

甲・丙巻に登場。擬人化されておらず鹿と同じく乗り物として描かれている。

甲・丙巻に登場。擬人化されており、猿や蛙と同じく泳いだり、矢を射たり、相撲をとったりと多数。

乙巻の馬に続いて登場。背を向けたり、木に身体をこすり付けたり、牛同士がぶつかり合う(角あわせ)姿が 描かれる。牛同士のぶつかり合いは装飾でたまに見かける。

乙巻の冒頭に登場。毛繕いしたり、野を駆け回ったり、草を食べたりする馬を見ることができる。

甲・丙巻に登場。擬人化されており、兎や猿と並んで多く目立つ。

亀(犀?)

乙巻の鷲・隼に続いて登場。甲羅を持ち、頭部と鼻に角がある。足は蹄ではなく亀の足。 尾は短い。犀と考えるよりは亀と考えたほうがよいだろうか。

唐獅子

乙巻の虎に続いて登場。牡丹らしき花・桔梗らしき花(季節などが合わないが)と蝶がセットである。 装飾に見る唐獅子と違いはなく、体毛のカール、ネコ科の感じがよく表現されている。 ちなみに1頭は吼える姿を、もう1頭は頭を掻き、舌を出す姿である。

甲巻に登場。鼠と同じく1ヶ所にしか登場しない。擬人化されている。

甲・丙巻に登場。擬人化されているが兎や蛙、猿等に比べれば出番は少ない。

麒麟

乙巻の亀に続いて登場。2頭描かれるが、明確な違いとして1頭は角にキノコ(霊芝か)のようなものが、 もう1頭は角が剣の姿をしている。また、髭はなく、体毛もカールしていない。

甲・丙巻に登場。擬人化されており、兎や蛙と同じくいろいろな動きが見える。

鹿

甲・丙巻に登場。擬人化はされておらず、兎や猿の乗り物となっている。

乙巻の龍に続いて登場。特徴である牙は短く表現されており、皺もそんなに多く表現されていない。 しかし、鼻の長さなどはよく表現されている。

乙巻の牛に続いて登場。三羽出てくるが、いずれも木の枝に留まる。

乙巻の山羊に続いて登場。いわゆる虎柄であるが、豹と同じく首が細長く、どちらかといえば 高松塚古墳の白虎に近い感じさえする。顔も今見る虎の感じではなく、イヌに近い。
なお甲巻では虎皮として登場する。

乙巻の犬に続いて登場。親子で描かれるが雄鶏の尾羽は立派に描かれ威厳さえ感じる。

甲・丙巻に登場。出番は非常に少ないがやけに目立つ。擬人化されている。

甲巻に登場。擬人化されており、兎の背に隠れるようにいるのは、近くに描かれている 猫を警戒してか。

乙巻の象に続いて登場、最後を飾る。表現は装飾に見る獏と同じであるが、牙は短く、 眼が上目遣いになっているせいか、少しばかりの違和感を覚える。

隼・鷲

乙巻の鶏に続いて登場。鷹との違いは明確であるが、鷲と隼の違いはぱっと見た限りではわからない。

乙巻の麒麟に続いて登場。豹柄ではあるが、後ほど出てくる虎と同じく首が細長い。 また、顔もネコ科というよりはイヌ科に近い。

甲巻に登場。擬人化されていない。猿の読経、蛙の仏像の場面のみ現れる。この梟の存在 (梟は死を司るとされる)がこの場面が死者を弔う追善供養と想定されている。

丙巻の最後に登場。甲巻の最後にも描かれていたらしい。丙巻では擬人化されていた蛙などが 蛇の登場により本来の姿に戻って逃げている。物語を締める存在という指摘がされている。

山羊

乙巻の豹に続いて登場。羊との混同は見られず、角は丸まっておらず、髭も長いという 山羊の特徴をよく捉えている。

乙巻の唐獅子に続いて登場。足は4足、指は4本、特徴の一つである角は控えめにあり、 顔もそんなに長くはない。身体は蛇というよりワニに近い。

まとめ

『鳥獣人物戯画』には27種類もの動物が登場します。中には擬人化されているものも ありますが、特に乙巻に描かれた動物・霊獣は貴重であると思います。霊獣に関していえば 実際いないですから描かれた姿=当時の認識と考えてもなんら差し支えがないのではないかと思います (唐獅子や象、龍は仏教の図像をそのまま使ったと思いますが)。
冒頭にも述べたように、これらの絵巻物が何のために描かれたかわからないの ですが、平安時代末〜鎌倉時代初期の描かれた動物・霊獣としてこの絵巻物は 重要な資料と考えることができるのではないでしょうか。

参考文献
サントリー美術館『鳥獣戯画がやってきた! 国宝『鳥獣人物戯画絵巻』の全貌』 2007年

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