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能と装飾意匠

能は室町時代、世阿弥によって大成されたものですが、今見るかたちに整ったのは 江戸時代のことです。能はさまざまな題材から取材していますが、これがもとになって 装飾に使われた例がいくつかあります。ここでは、能と装飾意匠のつながり について書いていこうと思います。

能の広まり

能が今日のような姿になったのは、江戸時代と書きましたが、この最もな要因として、 江戸幕府による式楽化が挙げられます。これに伴って諸国の大名も能を保護するようになり、 能は武家の嗜みのひとつとなります。
では、庶民はどうかといいますと、庶民にも能は広まっていました。例えば今も売って いますが、「謡本(うたいぼん 台本のようなもの)」は江戸時代のベストセラーでした。
また、能を見る機会も武士に比べれば少なかったでしょうが、それなりにありました。 加賀藩の例を挙げますと、金沢城二の丸御殿で町民を招待しての能、大野湊神社・観音院の 神事能があります。町民の素養として謡曲が求められ、「空から謡が降ってくる」とも 称されました。

能の題材

能といっても話はさまざまで、神々が出てくるものがあれば、亡霊が出てくるものもあり、 また、終わり方にしても救いがあるものがあれば、ないものもありで、さまざまです。
ただ、能オリジナルの話というのはなかなかなく、そのほとんどが何らかの話をアレンジ した、もしくは影響を受けたものです。 『能・狂言図典』によれば主に『古事記・日本書紀・風土記』、『縁起・伝承』、 『万葉集』、『古今和歌集』、『伊勢物語』、『源氏物語』、『平家物語』、『太平記』 、『義経記』、『曽我物語』を挙げることができる、とあります。
ビジュアルで見る文学といっても過言ではないでしょうし、謡本がベストセラーになっていた ということからも、能が装飾意匠に及ぼした影響は強いかと思います。

能が装飾に使われる

能の題材が装飾に使われるのは、そのほとんどが曳山(山車)におけるものです。 祭神としてあったり、彫刻になったりとありますが、寺院や神社ではほとんど見かけることが ありません。また、私は詳しくないのですが、根付の意匠でも能が使われることがあります。
但し例外があり、「張良」における「張良と黄石公」は 寺社仏閣でもよく見かけます。

ちなみに私の見てきたなかですが、意匠として使われている 能の題材は次の通りです〔()は人物名などを記す〕。
・石橋(唐獅子)・猩々(猩々)・高砂(尉・姥、住吉明神)・張良(張良、黄石公) ・鉢木(佐野源左衛門)・菊慈童(菊慈童、『太平記』に共通)・皇帝(鐘馗) ・三笑(虎渓三笑 特に陶淵明)・西王母(西王母、武帝)・白楽天(白居易、住吉明神) ・大蛇(スサノオ)・草薙(ヤマトタケル)

果たして、能の題材がどれだけ浸透していたかは推し量ることができないのですが、 謡本がベストセラーになっていた(ややもすれば寺子屋でも使っていたらしい)ということ、 また、能が教養のひとつになっていたことは否定ができません。
数多くの題材の中でも特にめでたいもの、馴染みの深いもの、教訓的なものが 装飾意匠につながっていることがいえるのではないかと思います。

参考文献
小林保治・森田拾史郎編『能・狂言図典』小学館 1999年

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