○撮影場所 京都市上京区北野天満宮三光門(唐破風)
○制作年代:慶長12(1607)年
組み合わせは月・波・五色の雲。五色の雲は兎の神格化を表わすか。
・兎の姿:兎百態
■概要
哺乳綱ウサギ目ウサギ科。身近にいる動物であり、日本では古くから親しまれていた。
十二支の四番目。方位は東、時間は朝六時前後、旧暦二月を司る。
■特徴
◎装飾彫刻では実際の兎と間違えることはない。
・耳が長い
・彩色はほとんどが白色
・組み合わせ:波 月 枇杷
烏(太陽と月の表現の場合)
蛙(月の表現の場合)
・季語:冬
・関連:「鳥獣戯画」の動物
■来歴・意味
飛鳥時代の刺繍「天寿国繍帳」の月の中に蛙とともに表現される。兎と蛙が
月で不老長寿の薬を作っているのだという。ところが月から蛙がいなくなり、
月とくれば兎というのが固まってくる。
日本神話では「因幡の白兎」が著名であり、オオクニヌシ神話の序盤のみせどころである。
「鳥獣戯画」では猿とともに活躍しているさまが見られる。
また、兎と波が組み合わされるパターンがよく見られ、謡曲「竹生島」が元だとされる。
波と合わせることから、火災除けに用いられ、蔵や火事装束に用いられる。
・中国後漢時代『論衡』「物勢第十四」(『新釈漢文大系』68)
卯は兎なり、
・中国後漢時代『論衡』「説日第三十二」(『新釈漢文大系』68)
日中に三足の烏有り、月中に兎・蟾蜍有り。
・和銅5(712)年『古事記』上巻(倉野憲司 校注『古事記』岩波文庫 1963年)
(皮膚がぼろぼろになっていた兎にオオクニヌシが治療方法を教えた後、)故、教へ
の如せしに、その身本の如くになりき。これ稲羽の素兎なり。今に兎神といふ。
故、その兎、大穴牟遅神(オオナムヂ=オオクニヌシ)に白ししく、
「この八十神は、必ず八上比売を得じ。袋を負へども、汝命獲たまはむ。」とまをしき。
・延長5(927)年『延喜式』巻二十一 治部省 祥瑞 上瑞(『国史大系』26)
「赤兎(説明文なし)」
・『延喜式』巻二十一 治部省 祥瑞 中瑞(同上)
「白兎 月の精なり。その寿千歳。」
・平安時代後期『今昔物語集』巻第5の13「三つの獣菩薩道を行じ、兎身を焼けること」
(今野達 校注 岩波新日本古典文学大系32『今昔物語集1』)
(兎と狐と猿が帝釈天の変身した老人に菩薩行の証としてそれぞれ食べ物を集めることになるが、
兎は何も持ってくることができなかった。そこで)兎、「我れ食物を求めて持来るに力無し。然れば只我が身を
焼て食らい給うべし」と云いて、火の中に踊り入りて焼け死にぬ。
その時に天帝釈、本の形に復して、この兎の火に入りたる形を月の中に移して、あまねく一切の衆生に
見しめんがために、月の中に籠め給いつ。然れば、月の面に雲の様なる物のあるは、この兎の火に焼けたる
煙なり。また、月の中に兎のあるというは、この兎の形なり。よろずのひと、月を見ん毎にこの兎のこと
思い出ずべし。
・謡曲「竹生島」(『解註謡曲全集』1)
「月海上に浮かんでは、兎も波を走るか面白の浦の景色や。」
・正徳4(1714)年『絵本故事談』巻之一 兎波上を走る(『江戸怪異綺想文学大系』3)
兎は望月にして孕み口中より子を吐といへり。八月十五夜月明なる水面を走りて感じて孕む。
・高藤晴俊『図説社寺建築の彫刻』
・『日本・中国の文様事典』