装飾意匠を読み解くにあたって役立つ知識のひとつが陰陽五行です。
これは江戸時代までの日本では常識とされていたもので、今となっては非常に難解です。
しかし、これがわからないと四神や十二支、果ては組み合わせなどが
読み解けていけません。
ここでは、吉野裕子『ダルマの民俗学』(岩波新書 1995年)に依拠しながら
陰陽五行について考えたいと思います。
まずは陰陽五行の基礎に当る、十干十二支をもとに紹介していきます。
よく「陰陽五行」と一括りにいいますが、もともとは「陰陽」と「五行」です。
「陰陽」とはそのままですが「二つの相反する要素」と考えればいいかと思います。
「光と影」「太陽(日)と太陰(月)」「天と地」「男と女」など、挙げるときりがありません。
次に「五行」ですが「この世の中を形成する五つの要素」と考えれば
いいかと思います。
すなわち「木・火・土・金・水」なのですが、どんなものでもこれに当ては
まるのが「五行」なのです。
上で紹介した「陰陽五行」をよく表わしているのが「十干」といわれるモノです。
よく「干支(えと)」といいますが、これは「十干十二支」の略です。
例えば「今年は亥年」と言ったりしますが、これは十二支のみで、
正確には「干支」ではありません。「干支」でいうならば2007年は「丁亥(ひのと・い)」
ということになるのです。
では、この「丁」とは何者か?十干を順番に書いて見ましょう。
漢字:甲・乙/丙・丁/戊・己/庚・辛/壬・癸
音:コウ・オツ/ヘイ・テイ/ボ・キ/コウ・シン/ジン・キ
訓:きのえ・きのと/ひのえ・ひのと/つちのえ・つちのと/かのえ・かのと/
みずのえ・みずのと
これではわかりにくいです。訓読みに漢字を当てましょう。
木の兄・木の弟/火の兄・火の弟/土の兄・土の弟/金の兄・金の弟
/水の兄・水の弟
つまり、「五行」でいう「木・火・土・金・水」と陰陽でいう「兄(陽)と弟(陰)」が組み合わさっているのが
「十干」です。ですから「火の兄」とは「大火」、「火の弟」とは「ライターの火」というように、
わけることができる、ということです。ちなみに「陽」は剛強・動を、「陰」は柔和・静を表わすといいます。
ちなみに、十干には次のような意味もあります。
・甲:鎧、草木の種子が皮をかぶっている
・乙:軋(きし)る、草木の芽がまだ伸びない
・丙:あきらか、草木が伸び、姿があきらかになる
・丁:壮、草木の姿が充実している
・戊:茂る、草木が盛大になった状態
・己:紀、草木が盛大で、しかも姿が整っている
・庚:あらたまる、盛大を過ぎて行き詰まり、改まっていこうとする
・辛:新、草木が枯死し、また新しくなろうとする
・壬:妊、草木の種子の内部に新たな命がはらむ
・癸:揆(はか)る、種子の内部の新たな命が計られるほどになる
十二支については十二支とは?で記述していますので、 そちらを御覧になっていただければと思いますが、十干と十二支が結びついたのが「干支」 です。10と12の最小公倍数である60種類です。順番に書いていきます。
甲子・乙丑・丙寅・丁卯・戊辰・己巳・庚午・辛未・壬申・癸酉・甲戌・乙亥・ 丙子・丁丑・戊寅・己卯・庚辰・辛巳・壬午・癸未・甲申・乙酉・丙戌・丁亥・戊子 ・己丑・庚寅・辛卯・壬辰・癸巳・甲午・乙未・丙申・丁酉・戊戌・己亥・庚子・辛丑 ・壬寅・癸卯・甲辰・乙巳・丙午・丁未・戊申・己酉・庚戌・辛亥・壬子・癸丑・甲寅 ・乙卯・丙辰・丁巳・戊午・己未・庚申・辛酉・壬戌・癸亥
「甲子」は見たことがないでしょうか?「甲子園」の「甲子」です。この年に完成した
ので甲子園。「壬申の乱」「辛亥革命」などもみな十干十二支からとられています。
この表にある以外は存在しません。ですから「甲丑」とか「乙子」はないのです。
ちなみに十干の兄(陽)に結びついた十二支(子・寅・辰・午・申・戌)は「十二支の陽」、
十干の弟(陰)に結びついた十二支(丑・卯・巳・未・酉・亥)は「十二支の陰」となります。
なお、十二支にも十干と同じような意味があります。
・子:ふえる、新しい命が種子の中から出だす
・丑:からむ、芽が種子の内部でまだ伸びない
・寅:うごく、草木の発生
・卯:茂る、草木が地面を覆う
・辰:振るう、草木が伸長する
・巳:已(や)む、繁盛の極みの状態
・午:逆らう、初めて衰微の傾向がでてきた
・未:味わう、成熟し、渋みが出てきた
・申:呻(うめ)く、成熟の後、締め付けられ、固まっていく
・酉:ちぢむ、成熟から縮んでいく姿
・戌:滅ぶ、滅んでいく姿
・亥:とじる、生命力が落ち、すでに次の種子に命が内蔵されている姿
これらは直接装飾意匠につながってきませんが、この後紹介する五行配当 などを理解するには最低限の予備知識になります。