五行配当の中でも十二支とのつながりは装飾意匠を見る上で、また、日本の祭などを見る上で重要です。 ここでも吉野裕子『ダルマの民俗学』(岩波新書 1995年)を参考にしつつ、十二支と陰陽五行について 考えていきたいと思います。
五行配当表は五行配当・相生・相剋に1度出しておりますが、ここで再び登場です。 必要部分だけ、提示します。それから、季節を追加しましょう。
五行 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
十二支 | 寅・卯・辰 | 巳・午・未 | 辰・未・戌・丑 | 申・酉・戌 | 亥・子・丑 |
月 | 1・2・3 | 4・5・6 | ー | 7・8・9 | 10・11・12 |
季節 | 春 | 夏 | ー | 秋 | 冬 |
見ての通りなのですが、まずおさえなくてはならないのは、「旧暦」で話をしている、 ということです。今の暦(太陽暦)よりも約1ヶ月ずれていると考えてもらえばと思います。 もし、手元にカレンダーがありましたら、「旧暦○月○日」と書いてあったりする、その旧暦です。 ちなみに旧暦とは「太陰暦」、月の満ち欠けで暦が決まります。ですから満月は確実に15日、新月は 確実に1日(朔日)となっています。
普通に考えれば「子」から始まるのですから「子=1月」でもいいはずですが、 なぜか「寅=1月」です。これは星のめぐりによる理由があるのですが、ちょっと複雑なので 今は省略します。とりあえず「1月は寅の月」と覚えておきましょう。
表をよく見てみますと、「辰・未・戌・丑」がそれぞれの属性と「土」の属性を兼ねています。
これは何かと言うと、「土用」の存在する月です。「土用」というのは平たく言えば
季節の変わり目のこと。つまり「立春・立夏・立秋・立冬」の前18日分を「土用」と呼んでいます。
これもカレンダーを見ますと土用の始まりの日を「土用の入り」とか「土用」と書いてあります。
ですから、3・6・9・12月の12日分はそれぞれの属性、18日分は土の属性になります。
さて、今まで書いてきたことを表にしてみましょう。
四季が3ヶ月に区切られていると言うのは表によってわかったかと思います。
これを、始まり・盛ん・終わりに分けようと思います。
たとえば春(木)は1月(寅)・2月(卯)・3月(辰)ですが、それぞれ
孟春・仲春・季春といいます。夏や秋も冬も同じです。
「中秋の名月」という言葉がありますが、もとは「仲秋の名月(中と仲は同じ意味です)」
でして、八月十五夜のことを指します。つまり、秋の盛りの名月ということ。ただ、旧暦
と新暦はずれがあるので、9月〜10月のあたりに「仲秋の名月」がくるのです。
これを五行で言い換えると木の始まり・木の盛ん・木の終わりと なるわけです。これが「短期の三合」といわれるものです。
ところが、短期があれば長期もあるわけでして、この三合の法則も例外ではありません。 まずは表にして見ましょう。
五行 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
短期三合 | 寅・卯・辰 | 巳・午・未 | ― | 申・酉・戌 | 亥・子・丑 |
長期三合 | 亥・卯・未 | 寅・午・戌 | ー | 巳・酉・丑 | 申・子・辰 |
それぞれの盛んに当るところは共通していますが、始まりと終わりの部分が
違っています。「短期」が順番どおりならば、「長期」は間に3ヶ月入ってきます。
次に、十二支と短期・長期三合の組み合わせ表を出してみます。
十二支 | 子 | 丑 | 寅 | 卯 | 辰 | 巳 |
短期 | 水盛 | 水終 | 木始 | 木盛 | 木終 | 火始 |
長期 | 水盛 | 金終 | 火始 | 木盛 | 水終 | 金始 |
十二支 | 午 | 未 | 申 | 酉 | 戌 | 亥 |
短期 | 火盛 | 火終 | 金始 | 金盛 | 金終 | 水始 |
長期 | 火盛 | 木終 | 水始 | 金盛 | 火終 | 木始 |
さて、この表と、今まで見てきた十干十二支・五行相生・五行相剋をもとに 少し例を出してみましょう。あくまでも例でして、このような例はどれだけでもあります。
たとえば「丙午(ひのえうま)」というのがありますが、「丙(ひのえ)」は「火の盛んなる様子」 、午は「短期・長期とも火の盛ん」なので、とにかく火が強いのです。 ですので、「この年は火事が多い」とか「この年生まれの女性は気が強い」というように いわれていたりします。
また、馬小屋に猿を飼うという習慣がありますが、馬は「火が盛ん」ですので、
火を消すには「水」が必要です。ただ、ここが問題でして「水が盛ん」であるところの
鼠ではなく、「長期の水の始まり」である猿なのです。「短期」でみれば終わりを除くとして
「水の始め」である猪でもいい気がしますが。
馬と猿については民俗学では「猿と馬は仲が良く、馬がおとなしくなり、扱いやすくなるからだろう」
(宮本常一『絵巻物に見る日本庶民生活誌』中公新書 1981年)という意見もあります。
以上、陰陽五行について書いていきました。但し、全部が全部これに当てはめようとすると
矛盾が生じたりしてきます(そこはおおらかに、というのが吉野氏の意見ですが)。また、あまりにも
複雑なもので、どこで相生か、相剋か、もしくは三合でも短期か長期かということについては
数々の事例をよく見ていかなくてはならないのが実情です。
当然、陰陽五行だけでは理解できないこともありますので、あくまでも参考程度に、
推理材料として使うのがいいかと思います。
特に、日本の場合は「いいとこ取り」が多いものですから、いろいろな視点から
装飾意匠についてみていくのが妥当でしょう。