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参考文献・史料・資料
装飾の間に取り上げているジャンルは幅広く、多くの参考文献の上に成り立っています。
図像が何者か、組み合わせは何か、何かの意味はあるのか、意匠の系譜はどうなのか、
などなど、挙げるときりがありませんが、これを裏付ける史料、先学の研究があってこそ
この装飾の間が成り立っているといっても過言ではありません。
ここでは参考文献、史料の紹介をします。
○凡例
史料はできる限り時代順で、参考文献はジャンル別に紹介します。
中には手に入りにくい本、書店に置いていないものもありますのでご注意ください。
また、当然の事ながら、増えて行きます。
○史料
・『今昔物語集』 岩波新古典文学大系など
平安時代後期成立といわれる説話の宝庫。インド・中国・日本の仏教に関するものから
世俗に関するものまで全31巻(欠巻あり)、約1000話を収める。
動物をどのように見ていたか、どのような話がこの頃まで知られていたかを知る一種の目安になり、
「中国二十四孝」の一部も見ることができる。ただ、『今昔物語集』は後世にあまり影響を与えていないらしく、
その点は注意が必要かもしれない。
なお、『今昔物語集』はさまざまな出版社から出ているが、完全なものは岩波新日本古典文学大系版
のみ、あとは抄出であったりする。ちなみに全現代語訳版として東洋文庫のモノがある。
・『太平記』 小学館新編日本古典文学全集など
いわずと知れた南北朝の動乱を記した軍記物語であるが、中身をよく読んでみると
中国・日本の故事や神話などが所々に散りばめられている。装飾の間でも特に神話・人物部において重用。
神話や中国故事などは原典にあたる『古事記』や『史記』等に当たるべきであるが、当時の日本で
知られていた中国・日本の歴史を知るという上では重要であり、また江戸時代に『太平記』がブームを
起したという点からも見る価値はある。詳しくは太平記と装飾意匠
をごらん下さい。
・市古貞次校注『日本古典文学大系 御伽草子』岩波書店 1991年
「中国二十四孝」はこれに全面依拠。特に岩波版は挿絵も入っているので彫刻などを見たときに
照合するのに役に立つ。文庫本(上下巻)は今でも手に入る。
・野上豊一郎『解註謡曲全集1〜6』中央公論社 1935年
謡曲関係はこの全集に依拠。各出版社から謡曲に関するものは多々出ているが、
全てを網羅したものは少なく、管理人の見た限りではこれに敵うものはない。問題を
いえば、表現が古いので読むのに難儀する可能性があるくらいか。
いきなりこれにあたってもいいが、謡曲・能について全然わからないと
使えないので、まずは
小林保治・森田拾四郎編『能・狂言図典』(小学館 1999年)
でおおよそ見当をつけてから(この本は能・狂言の現行曲すべての概要が書かれているので便利)
あたるといいかもしれない。
詳しくは能と装飾意匠
をごらん下さい。
・高橋幹夫『絵で知る江戸時代』芙蓉書房出版 1998年
原本は『頭書増補訓蒙図彙大成』(寛政元〔1789〕年)で、絵は原本から、
説明は著者が訳したものを使用。江戸時代の知識がどのようなものだったかが絵を通してよくわかる。
しかも、子どものために書かれたというのだから、その内容の濃さには驚くしかない。
もう少し深いところへ行くならば、『和漢三才図会』が必要となる。
非常に参考になる本だと思うのだが、残念ながら非常に手に入りにくい状態になっている。
・劉向・葛洪 沢田瑞穂訳『列仙伝・神仙伝』平凡社 1993年
中国の仙人について書かれた本。訳されているので読みやすく、若干ながら挿絵もあるので
役に立つ。
仙人について書かれた本は多くあるが、普通に手に入るのは
これだけ。当然ながらこの本に出ていない仙人もおり、その場合は『有象列仙全伝』などにあたるしかない。
・金沢美術工芸大学付属図書館ホームページ(絵手本DB)
本では手に入らない「有象列仙全伝」などがみられる。あまりにも量が多いので
使いこなしが必要であるが、江戸時代に出回っていた図像を知るには手軽でよい。
○参考資料
・『大工彫刻―社寺建築のフォークロア―』INAX BOOKLET 1986年
装飾彫刻がまだ「過飾」とか見向きもされないときに出された本。内容は『江戸の装飾建築』に近いが、
特に中世から近世の変遷に力を入れ、また地方における装飾彫刻にも言及している。
残念ながら絶版。
・窪寺茂『江戸の装飾建築 近世における建築の解放』INAX ALBUM28 1994年
建築装飾の歴史を簡単に概観した上で近世になぜ装飾建築が生まれたのか、
特に装飾絵画から装飾彫刻への移り変わりについて言及している。
・高藤晴俊『図説 社寺建築の彫刻』東京美術 1999年
装飾彫刻を調べる上で欠かせない一冊。著者は日光東照宮の神職であり、
日光東照宮の彫刻を全て数え上げ、分類していることで著名。この本が無ければ
装飾の間は成り立たなかったであろう。しかし、人物や器物に関しては皆無で、
動物・植物のみであり、また日光東照宮にない図像・意匠は当然の事ながら紹介されていない。
同筆者による『日光東照宮の装飾文様〈植物・鳥類〉〈人物・動物・絵画〉』
(グラフィックス社 1994年)は写真で日光東照宮の装飾彫刻を惜しみなく紹介しており、
それぞれ名称も書いてあるので一緒に読んでおくとよい。
しかし、ここで紹介した3冊はいずれも絶版、特に後者はアマゾンでとんでもない値段が付いている。
・高藤晴俊『日光東照宮の謎』講談社現代新書 1996年
『図説 社寺建築の彫刻』にくらべれば装飾彫刻は取り上げられていないが、
日光東照宮の人物彫刻(尭・舜や仙人など)が取り上げられているので一読したい。
・『古建築の装飾―京都の近世社寺細見―』京都市文化財ブックス18 2004年
京都のいくつかの近世社寺を取り上げ、その装飾について紹介されている。その他にも
建築装飾の技法・歴史、京都の社寺建築の歴史、用語等を網羅。非常に有用ではあるが、絶版。
ちなみにこのシリーズは書店には置いていない。
・『近世日本絵画と画譜・絵手本展図録』町田市立国際版画美術館 1990
2冊セットであるが、Uのほうが使える。絵を描く時の手本やモデルとなった中国・日本の
版画を紹介。特に障壁画で用いられる帝鑑図説、仙人を紹介した列仙全伝等は役に立つ。
同じく掲載されている論文も読む価値がある(中国伝来のモノがいかにして日本で消化されていったか
等の言及あり)。
永田生慈 監修『北斎絵事典 動植物編・人物編』東京美術 1998年
ありとあらゆるものを描きつくし、現代も人々を魅了して止まない葛飾北斎
の描いた動植物・人物に関する絵をまとめたもの。装飾彫刻で何が彫られているかを
知る時に案外役に立ち、江戸の民衆における絵画の文化(挿絵など)を知るには手っ取り早い。
・『日本・中国の文様事典』視覚デザイン研究所 2000年
文様を割付・植物・動物・器物・自然などにわけ、紹介。図版も
白黒ながら多数あり、簡単な意味なども書いてある。また日中文様の歴史も参考になる。
・樹下龍児『日本の文様 その歴史』ちくま学芸文庫 2006年
古墳時代から昭和時代までの文様史。文様は著者が全て描き起こしたもので、
そこまで徹底的にやっているからこそ論には説得力がある。文様がどのように生まれ、
変化していったかを知るには好い。
同筆者による『風雅の図像』(ちくま学芸文庫 2007年)と
あわせて読むと、文様の歴史の奥深さ、日本人にとって文様とは何かが見えてくる。
深く読んでおきたい本。
・『うさぎワンダーランド』石川県立歴史博物館 1999年
兎に焦点を当てて行なわれた展覧会の図録。管理人は実際に見ていないが、
図録を見る限りでは非常に贅沢な、しかも内容の濃い展覧会だったと思われる。
美術の中に現れた兎をとにかく追いかけており、絵画から工芸、そして装飾彫刻まで
をカバー。一つの事物を掘り下げるとここまでのものができるという最良の事例といえる。
残念ながら、最近絶版となった。
・正和勝之助『勝興寺本堂の装飾彫刻』桂書房 2005年
富山県高岡市伏木にある浄土真宗本願寺派の寺院、勝興寺。その本堂に施された
装飾彫刻の図像的解釈と意味について探っている。少々論理の飛躍も否めないが、
注釈や参考文献などはしっかりしており、参考になる。
・『高岡御車山―華麗なる神の座―』高岡市教育委員会 2000年
富山曳山元祖である高岡御車山、その調査報告をコンパクトにまとめたもの。
この1冊があるだけで高岡御車山を知るには十分なくらいである。もっと深くいく場合は、
各御車山の調査報告書に当たる必要がある。
書店では入手できず、高岡市役所で販売されている。
・『新湊の曳山』新湊市(現射水市)教育委員会 1981年
富山県新湊市(現射水市)で秋行なわれる新湊曳山祭・海老江曳山祭の曳山について紹介。
ちょっと古い本ではあるが、今のところこれが新湊曳山の定本となっている。しかし、装飾に
ついては名称が怪しいものも(当時の水準)ある。
射水市博物館にて購入。書店にはない。
・『氷見の曳山人形展』・『氷見の曳山展』氷見市教育委員会 1989〜90年
富山県氷見市で夏行なわれる氷見祇園祭の曳山と飾られる人形について詳しく書かれている。
非常に安価であるが、内容は濃く、氷見祇園祭の定本と言える。
氷見市博物館にて購入。図禄扱いなので書店にはない。
・正和勝之助『伏木曳山祭再見』1998年
富山県高岡市伏木地区にて5月に行なわれる伏木曳山祭について装飾彫刻を中心に紹介。
参考資料や注釈も丁寧に書かれており、同著者の『勝興寺の装飾彫刻』と並んで読んでおいてもよい。
しかし、一般書店ではおろか、どこで購入できるか不詳。管理人は伏木曳山祭で
出ていた観光協会のテントにて購入した。
・『城端曳山史』城端曳山史編纂委員会 1978年
富山県南砺市城端地区で5月に行なわれる城端曳山祭について、城端の歴史を交えながら
紹介。城端曳山祭の定本と言えるが少し古く、しかも在庫僅少であり、手に入れにくい。
城端曳山会館にて購入するものの、今は購入できるかどうか不詳。コンパクト版は
オールカラーで販売されており、ページ数は少ないものの、役に立つ。