○撮影場所:富山県高岡市 伏木曳山祭本町山
○制作年代:天保12(1841)年
組み合わせは打ち出の小槌。打ち出の小槌
は大黒天の持物である。
・鼠の姿:鼠百態
■概要
哺乳綱ネズミ目。身近にいる動物であるが、農作物に害を加えたり、伝染病を運んだりと、
あまりいいイメージがない。しかし、大黒天の使いであり、多産・繁栄の象徴。
十二支筆頭で北の方位、時間は夜中の十一時ごろ、旧暦十一月を司る。
■特徴
◎実際の鼠と間違えることはないが、リスとの類似に注意。
・尾が長く、耳は短い、小柄
・組み合わせ:小槌 米俵 大根
葡萄 大黒天
・類似:リス
・関連:「鳥獣戯画」の動物 十二支
■来歴・意味
身近にいる動物ではあるがどちらかというと農作物に害を与えるイメージが強い。
文献では『古事記』『日本書紀』から登場しており、前者はオオクニヌシを火中から
助ける役割、後者は遷都の象徴として大量移動した記事が書かれる。
鼠は多産であり、繁栄の象徴とされた。また、オオクニヌシ(大国天=大黒天)
の使いともされた。ここで紹介している図像はまさに大黒天を暗示しているといえよう。
装飾彫刻では上記と十二支の第一として見かける姿がほとんど。
・中国後漢時代『論衡』「物勢第十四」(『新釈漢文大系』68)
子もまた水なり、その禽は鼠なり。
・中国隋時代『五行大義』巻五
「鼠の性たる、昼は伏し夜は遊ぶ。陰気に象るなり。穴を出でて常に首をあらわすは、
陽気の子(冬至の頃)に萌動し、あらわれんと欲するの伏を象るなり。」
・和銅5(712)年『古事記』上巻(倉野憲司 校注『古事記』岩波文庫 1963年)
(オオクニヌシがスサノオから鏑矢を取ってくるようにといわれ、行った先で火をかけられた時、)
ここに出でむ所を知らざる間に、鼠来て云ひけらく、「内はほらほら、外はすぶすぶ。」
といひき。かく言へる故に、そこを踏みしかば、落ちて隠り入りし間に火は焼け過ぎき。
ここにその鼠、その鳴鏑をくひ持ちて、出て来て奉りき。その矢の羽は、その鼠の子等くひつ。
・平安時代末『今昔物語集』巻第4の19「天竺の僧房の天井の鼠、経を聞きて益を得たること」
(今野達 校注 岩波新日本古典文学大系32『今昔物語集1』)
白き鼠は命三百歳あり。一百歳より身の色白くなりぬ。その後は、よく一年の内の
吉凶の事を知り、千里の内の善悪の事を悟る。その名をば神鼠という。
・元禄8(1695)年『本朝食鑑』獣畜部 鼠
(島田勇雄 訳注 『本朝食鑑5』平凡社東洋文庫)
一種に純白なものがあり、斑白なものがあり、俚俗では大黒天の使といって飼い、相祝
して福鼠という。そして福鼠の聚って居るところを隠里と名づけ、そこでは金銀・珠玉は
乏しくなく、寿命も千歳であるとする。
・正徳2(1712)年『和漢三才図会』 鼠類 白鼠
(島田勇雄他 訳注 『和漢三才図会』6 平凡社東洋文庫)
人はこれを福祥とし、かつ大黒天の使であるという。たまたま白鼠の出てくる
のを見かけるようなときは、大抵米倉から出てくるからである。
・高藤晴俊『図説社寺建築の装飾』
・梶島孝雄『日本動物史』